生活保護の住宅扶助・冬季加算の改悪、減額に強く抗議する

2015年2月24日

生存権裁判を支援する全国連絡会
会長 井上英夫
(新宿区新宿5‐12‐15 ☎03-3354-7431)

1 住宅扶助・冬季加算の改悪・減額の内容

政府は来年度予算案で、生活保護の住宅扶助と冬季加算の減額を決めました。住宅扶助は来年度30億円引き下げ、2017年度には今年度と比べ約190億円減額。冬季加算は来年度30億円引き下げます。3年計画で引き下げてきた生活扶助の減額約260億円も行うとし、来年度では実質約320億円の減額になります。
住宅扶助基準は一般基準が1万3,000円(3級地は8,000円)で各都道府県・級地別、世帯人数によって特別基準が設けられています。特別基準は各都道府県の申し出により厚生労働省(以下、厚労省)が決めることとなっています。改悪の内容は2人以上世帯の区分を細分化し、2人世帯の減額幅が大きく、例えば東京23区(1級地)で6,000円、大阪府池田市など(1級地)で8,000円、埼玉県熊谷市など(2級地)で1万円の減額となります。減額になる世帯は、生活保護を利用している約160万世帯のうち2割前後となります。高齢者の場合は住み慣れた住宅からの転居は病気の発病や悪化を起こし、子どものいる世帯は学校の転校などを強いられかねません。
住宅扶助基準が低いために、例えば基準内で単身世帯の最低居住面積水準(25㎡)を充たす民間住宅は全国平均で13%しかありません。13%に合わせるように「地域によるバラツキを是正する」(厚労省社会・援護局 保護課「住宅扶助及び冬季加算等の見直しについて」)としていますが、引き下げることは間違いで、居住環境の改善こそ求められます。
厚労省は「貧困ビジネスの排除」を掲げて「より適切な住環境を備えた住宅へ誘導」するため、劣悪な住宅には住宅扶助上限額を減額する仕組みを導入するとしています。「貧困ビジネスの排除」対策として効果を発揮するのであればまだしも、住宅扶助基準が低いために劣悪な住宅しか見つからなかった生活保護利用者の場合、住宅扶助費が減額される危険性があり、言語道断です。
冬季加算は、世帯人数別、級地別、全国を5地域区分した寒冷地別に支給する仕組みになっています。3人世帯で1%~20%の減額です。今回の「見直し」で冬季加算全体が引下げられます。級地間格差が認められないとして2級地―1から3級地―2までの格差を縮小し増額することは評価できますが、絶対額が低すぎます。これまで一律12月から3月の5か月間の支給でしたが、寒い地方は、10月から又は11月から7か月ないしは6か月支給と幅を持たせますが、支給総額は変わらないというお粗末さです。

 2 「結論先にありき」、実態とかけ離れた減額

こうした「見直し」・減額の問題点の第1は、財政制度等審議会(平成26年3月28日開催)が示した、住宅扶助が一般低所得世帯(世帯収入300万円未満)の家賃より2割高い、全国平均で近年の家賃が下がっているといったことを「根拠」に議論していることです。まさに「結論先にありき」で厚労省の資料が提出されて社会保障審議会基準部会で議論され、部会報告書が2015年1月9日に提出されました。政府・厚労省は「部会報告書を踏まえて」来年度予算案を作成したとしますが、部会報告書には「減額すべし」と明記されていません。部会報告書と予算案は乖離し、「結論先にありき」による減額です。
第2は、政府が貧困問題を解決するのではなく貧困を拡大・深化する政策を一貫してとっていることです。基準部会は厚労省が示した一般低所得者(年間収入第1・十分位)と比較した資料をもとに、住宅扶助、冬季加算は生活保護基準の方が高いとした報告書をまとめました。一般低所得者の中には生活保護基準より低い収入で生活している人がおり、この低い世帯の層との比較で決めていくならば負のスパイラルが働き一層低くなっていきます。日本の貧困率が16.1%(6人に1人)になっているいま、収入の低い人々の生活を引き上げることこそ求められます。
第3は、「生活保護受給世帯の居住実態に関する調査」の結果が生かされていないことです。報告書作成に当たり全生活保護利用者のうち12分の1の世帯を家庭訪問して行った「生活保護受給世帯の居住実態に関する調査」の結果は、単身世帯の場合、最低居住面積を確保できている保護世帯は46%(一般世帯76%)、設備条件充足を含めると31%(一般世帯60%)にすぎず、生活保護利用者の住環境の劣悪さが鮮明になりました。この結果を生かし、「健康で文化的な居住環境」へ改善していくことが求められますが、そこには目を背け基準を引き下げていることが問題です。
第4は、生活保護利用者の意見聴取の機会を設けていないという問題です。基準部会には当事者の参加はありませんし、委員会として、当事者の実態や意見を反映させたものを資料で提示するといった工夫すらされていません。住宅扶助基準以内で入れる住宅は古くて隙間風がひどい、暖房やエアコンがきかないなどの実態があります。冬季加算では、「冬は食費を削っても灯油代に充てる」「ペットボトルにお湯を入れ湯たんぽ代わりにし、朝は灯油代を浮かせるために寝床に入っている」という実態です。
障害のある人の政策の分野では、政府の障がい者制度改革推進本部に当事者が多数委員として参加するなど、「私たち抜きに私たちのことを決めるな」という考え方が定着しています。その他の政府の審議会においても、当事者からのヒアリング等を行うことは一般に行われています。生活保護利用者は、社会的に強いスティグマ(偏見や恥の烙印)があり、最も声を上げにくい立場に置かれています。だからこそ、意識的にその声が反映させる必要があります。

3 憲法25条2項は社会保障の向上・増進を規定している

こうした政策は、いくら「個別の事情による配慮措置」や「経過措置」を取ろうとも、生活保護利用者は「劣悪でいいのだ」とする、「劣等処遇」の考え方の表れと言わなければなりません。憲法25条は、国民の基本的人権として生活保護(生存権)を受ける権利を保障し、2項は、「国はすべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と規定しています。今回の住宅扶助・冬季加算の減額は、この国の向上増進義務に反し違憲・無効なものです。また、一昨年の、国連「経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会」の勧告にある通り、政府は生活保護の恥辱感を根絶し、受けやすい制度とするべきです。
生存権裁判を支援する全国連絡会は、生活保護の老齢加算が廃止され約2割もの生活費が減額されたことに対し「憲法違反・生活保護法違反」として裁判に訴え闘っている高齢な原告を支援する組織です。生活保護基準は、最後のセーフティネットとして国民生活の物差しの役割を果たしています。政府は生活保護基準の引き下げと制度改悪を中止し、人間らしいくらしができる住宅扶助基準と冬季加算に改善することを求めます。

「生活保護の住宅扶助・冬季加算の改悪、減額に強く抗議する」全文PDFファイル